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東京地方裁判所 平成8年(ワ)20423号 判決

原告

日本信販株式会社

右代表者代表取締役

澁谷信隆

右訴訟代理人弁護士

高橋孝志

横山雅文

鷲尾誠

若林直子

被告

有限会社亀卦川鉄筋

右代表者代表取締役

亀卦川邦夫

被告

亀卦川邦夫

右訴訟代理人弁護士

金井清吉

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金五六一万五七五八円及び

1  内金五〇九万五二四六円に対する平成八年五月二八日から

2  内金五二万〇五一二円に対する平成八年六月二八日から

各支払いずみまで年29.2パーセントの割合による各金員を支払え。

二  被告有限会社亀卦川鉄筋は、原告に対し、別紙ゴルフ会員権目録記載のゴルフ会員権の名義を原告名義に変更する手続き(訴外株式会社東千葉カントリー倶楽部に対する名義変更承認申請手続き)をせよ。

三  原告のその余の請求に係る訴えを却下する。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

五  この判決は主文一項につき仮に執行することができる。

事実及び理由

一  原告の請求

原告は、主文一項と同旨及び「被告会社は、原告に対し、別紙ゴルフ会員権目録記載のゴルフ会員権(以下「本件ゴルフ会員権」という。)の名義を原告名義又は原告から本件ゴルフ会員権を取得した第三者名義に変更する手続き(株式会社東千葉カントリー倶楽部に対する名義変更承認申請手続き)をせよ。」との判決を求め、その請求原因として別紙のとおり述べた。

二  被告らの答弁

被告らは、金銭消費貸借(請求原因一項)、保証委託(同二項)、譲渡担保契約(同三項)及び一部弁済(同五項)があったことは認めるが、それぞれの内容の詳細は不知。

なお、被告らは、平成八年九月ころ原告との間で、毎月五万円宛支払う旨の分割弁済の合意をしたので、金額請求及び遅延損害金請求は理由がない。

三  争点についての判断

1  金銭請求について

請求原因のとおりの消費貸借契約、保証委託契約及び譲渡担保契約が成立した(甲一から三)。また、被告亀卦川の連帯保証については、平成三年一〇月四日(原告主張日と異なる。)に成立した(甲一)。

なお、被告らは、分割支払いの合意が成立したので、全額及び遅延損害金の支払義務が発生しないと主張するが、そのような合意が成立した旨を認めるに足りる的確な証拠はない。

以上によれば、原告の保証委託契約に基づく求償金請求及び譲渡担保契約に基づく主文二項の限度における原告自身への名義変更請求は理由がある。

2  第三者への名義変更請求について

本件ゴルフ会員権を原告から取得する第三者名義への変更請求は、次のとおり不適法である。

(一)  現在の権利関係の請求と捉えた場合

本件請求のうち、本件ゴルフ会員権の名義を第三者名義に変更せよとの請求部分(以下「本件第三者名義への変更請求」という。)は、判決の当事者でない第三者への名義変更手続きをせよとの意思表示を求めるものであるというべきところ、まず、現時点では当該第三者は存在しないのであり、このような訴えはおよそ不合理無意味な訴えとして不適法である。

(二)  将来請求と捉えた場合

さらに、本件第三者名義への変更請求が将来の給付の訴えとして許容されるかどうかを検討するに、当該第三者が将来の権利者であるから、当該第三者のみが権利者として訴訟提起等の権利行使をすることができるにとどまる。原告は譲渡後にはもはや権利者ではなくなりなんらの権利行使をすることができなくなるので、原告が本件第三者名義への変更請求を将来の請求として提起することも認められない。

3  代替手段の有無

以上のように原告の本件第三者名義への変更請求は、当該第三者が権利を取得する将来に備えて現時点で予め原告が当該第三者のために権利を行使できるようにしようとする特異な請求である。原告は、本件ゴルフクラブの会員となってプレーをするためではなく、貸金の担保のために本件ゴルフ会員権を取得したところ、担保権を実行するためには、担保に取得した本件ゴルフ会員権を売却して譲受人のために名義変更が得られることが保証されることが必要であるとして、本件第三者名義への変更を求めている。しかし、本件第三者名義への変更のような特異な請求をする以外に右担保権の実効性を確保する手段がないとは思えない。すなわち、原告が現在の権利者として主文二項の限度の判決(あるいは現在の名義人である被告が本件ゴルフ会員権を譲渡する意思を示している旨を証明できる書類。)を取得しておけば、将来本件ゴルフ会員権を譲り受けた第三者は、右判決の写し(あるいは被告から原告への譲渡証明書)と自己が原告から本件ゴルフ会員権を譲り受けたことを証明できる書類を原告から取得して本件ゴルフ会員権を発行するゴルフ場経営会社(本件では株式会社東千葉カントリー倶楽部)に示すことにより、自己のために名義変更が得られるはずだからである。原告が本件ゴルフ会員権についての担保権を実行する便宜のために本件第三者名義への変更請求の訴えを予め提起する必要性もわからないではないが、民事訴訟法の基本的な骨組みを変更してまで特別に本件第三者名義への変更請求を認める必要性も根拠もあるとはいえない(当裁判所説示の右のような方法で第三者から名義書換請求がされれば、ゴルフ倶楽部を経営する会社がこれに応じないとは思えない。万一応じなければ、当初は当該ゴルフ場経営会社に対し、名義変更請求の訴えを提起することにならざるを得ないが、いずれこれに応じる慣習が成立することになると予想され、そうなれば、担保権の実行も本判決の主文で認容した限度で足りることになる。)。

四  よって、主文の限度で原告の請求を認容し、その余の請求(本件第三者名義への変更請求)に係るに訴えを却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但し書、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官岡光民雄)

別紙ゴルフ会員権目録〈省略〉

別紙請求の原因〈省略〉

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